二重手術、埋没法のお話⑤

美容医療コラム

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この記事のまとめ

埋没法重瞼術にナイロン糸だけが使われていた時代は、ナイロンは徐々に分解され、二重の線を保っていたのは糸の周囲に生体反応で出来た繊維組織による癒着だったよ。ポリプロピレン→アスフレックスと糸の素材の進化で、糸そのものによる維持が可能になったと思うよ。

癒着で二重の線が維持されるという話

前回までに何度か書いて来た様に、二重の折り返しのラインは糸そのものではなく、その周辺に鞘状に生じた繊維組織により、まぶたの浅い部分と深い部分が癒着することで生じるというのが、美容外科医の間では常識的に語られていました。
これは実際に埋没法後の患者さんに切開系の手術をすると、二重のラインが残っている人は糸の周囲での繊維増生が強く、いわゆる『取れて』しまった状態の人では弱かったり無かったりするという経験とも一致します。
ただ、これは埋没法に使われる糸がナイロンだけだった時代の話で、プロリーンなどのポリプロピレン糸が使われることが増えてきているこの数年でちょっと潮目が変わってきた感は有ります。

縫合糸の特徴をおさらい

前項の、ポリプロピレン縫合糸が埋没法に使われるようになってからの流れを詳しく説明する前に、代表的な3種の縫合糸に関して前回記事からのおさらいです。

ナイロン糸

合成縫合糸の中で最も歴史の古い糸です。非吸収糸(溶けない糸)に分類されますが、米国食品医薬品局のガイドラインでは、以下のように記されています。

徐々に体内の繊維状結合組織が埋没された縫合糸を鞘のように包み込んでゆく。
ポリアミド縫合糸は非吸収性であるが、体内にて徐々に加水分解しその結果最大1年毎に20%その抗張力が低下する可能性がある。
禁忌 生体内にて徐々に抗張力が減少するのでポリアミド縫合糸は眼球レンズの固定、人工血管の固定のような永続的な抗張力を必要とする部位には使用してはならない。

川崎医療研究所によるFDAガイドラインの和訳

ポリビニリデンフロライド

商品名はアスフレックス®、私が多交差6点法で愛用している糸です。生体反応性が極めて低く、長期間に亘って張力が維持されるという特徴が有ります。

張力残存率(invitro)3年半ph7.4
最初の張力の93%

張力残存率(invitro)9年
最初の張力の92.5%

生体反応(invivo)ウサギ4週間
反応なし、あっても最小限の反応

河野製作所公式アスフレックスの商品ページ

張力残存率(invitro)3年半ph7.4
最初の張力の77%

張力残存率(invitro)9年
最初の張力の53.4%

生体反応(invivo)ウサギ4週間
高度細胞浸潤が見られる

臨床経験上のポリプロピレン糸への印象

ポリプロピレン

ナイロンの加水分解による張力低下が指摘され、FDAにより血管縫合や眼内レンズの固定など永続的な効果を求められる部位には不適当とされて以後、徐々に埋没法に使用されることが増えてきている印象です。張力の経年劣化や生体反応性はナイロンとポリビニリデンフロライドの中間程度。プロリーン®の商品名でよく知られています。

古い論文ですが、ウサギの筋層縫合に用いたポリプロピレン糸の生体内での抗張力変化について調べられています。

生体組織中における縫合糸の抗張力変化
無処置 2,450g
7日目 2,390g (97.6%)
50日目 1,970g (80.4%)
100日目 1892g (77.2%)

外科用縫合糸の各種組織に対する影響とその物理的変化について

外科用縫合糸の各種組織に対する影響とその物理的変化について
外科用縫合糸の各種組織に対する影響とその物理的変化について

こちらは上に引用したアスフレックス® の公式ページからですが、比較としてポリプロピレン糸の性質に関しても述べられています。

河野製作所公式アスフレックスの商品ページ

細胞浸潤に関しては先の古い論文と異なる結果の様に読めますが、こちらはアスフレックス®の公式ページからの引用だということで少し割引いて読んだ方が良さそうですw

正直。ポリプロピレン糸を埋没法に使い始めた頃は効果に疑問を感じていましたが、埋没法施行後の患者さんでの全切開法や眼瞼下垂、埋没糸の除去手術の経験数が増えるに従って、違いを実感しました。ナイロンとの違いは以下の2点です。

糸周辺の繊維化

この差は肉眼的にも明らかでした。糸周囲の繊維化は生じるが、その程度はばらつきは有るものの総じてナイロンよりも軽度でした。

数年経過しても糸は存在している

ナイロンの場合は3年程度で結び目以外の部分は肉眼的には無くなるかボロボロに断片的にしか残っていない事が多く、5〜10年程度で結び目すら見当たらなくなる事が多いのですが、ポリプロピレンは数年経っても、色がなくなっているだけで糸は残っていました。
微小切開から埋没糸を除去する際に強く引っ張ったときに、新しい糸と比べると僅かに切れやすい様な印象はありましたが、はっきりと言い切れない程度です。

ゲームチェンジャー、アスフレックス®

アスフレックス®との出会い

眼瞼下垂の手術で前転させた挙筋腱膜を瞼板に固定するのに、プロリーンより良い糸があると聞いて(多分湘南の村松先生から)、業者さんから資料を取り寄せたり話を聞いたのが始まりでした。資料に有った張力残存率は3年半で93%、9年で92.5%と驚異的でした。また、糸と針に段差が少ない(つまり糸の太さが同じなら針が細い)商品が有るのも、何度も挙筋腱膜に糸を通すことの有る眼瞼下垂手術にはメリットになると考えて愛用する様になりました。

埋没法への応用

眼瞼下垂の手術でアスフレックス® を使い始めて暫くして、埋没法の手術にも使えるのではないかと思いつきました。というのも、ポリプロピレン糸はナイロンに比べればかなり良い印象だったのですが、それでもやはり二重の線の維持にはある程度癒着頼みだろうという印象が有ったのです。その理由の一つは、前述のウサギ生体内での抗張力低下を示した論文など、ナイロンよりはかなりマシだが抗張力は低下はするという論文を複数目にしたからです。繊維増生に関してもナイロンに比べれば明らかに少ないのですが、それでもループ法で長い距離を皮下に通糸している部位に繊維増生が生じて、整容上の問題となる事もごく稀とは言え有りました。
アスフレックス®の性能が資料通りであれば、癒着に頼らず糸の存在だけで維持されるのではないかと考えました。

現状での結論としては、この癒着に頼らない埋没法というコンセプトは、アスフレックス®を用いることで実現できていると考えています。これは術式とも深く関わる話なので、次回書かせてください。


今回も長文をお読みいただき有難うございました。
えぇ、本当に毎回毎回、こうやって後書きを書いている時には次回は最終回!って本当に思ってるんですよ。次は交差6点法にアスフレックス®を用いる理由などです。結局、多交差6点法をお勧めする理由を書きました。

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